「こんなふうに生きていけたなら」
世の中、娯楽にあふれているのに、なにもかも、正直つまんない。
年だからか、テレビの音が騒音にしか聞こえなくなっている。
たまに観るのは、おやじが酒を飲みながら街をめぐったりする旅番組ぐらい。
そんなときに、役所広司さん主演の映画「PERFECT DAYS」を観た。
主人公はトイレ清掃員。ルーティンのようななんでもない日常を淡々と切り取っただけの映画なのだが、なんとなくほっとさせるのだ。
クルマの中で自分の好きな洋楽をカセットテープで聴き、仕事が終わると銭湯に行き、いきつけの安い居酒屋で軽く一杯。
夜は古本屋で買った本を読み、疲れると布団に入って寝る。
そして早朝、またクルマで仕事場となる公衆トイレをめぐって淡々と仕事をこなす。
そんな主人公にも過去はあり、いろんな人間関係が交錯する。
それでもまた明日はやってくる。
結局、人生、こんな感じでいいんだろうなと思う。
映画のコピーのように「こんなふうに生きていけたなら」とまでは思わないが、そう思う。
これでいいのだ。
昼休み、公園でコンビニで買ったサンドイッチを食べ、主人公の清掃員は昔の小さなフィルムカメラで、木漏れ日の写真を白黒で撮る。
後日、焼き上がった写真のうち、自分の気に入ったものだけを残し、ほかはやぶって捨ててしまう。
そう、人は自分の大事なものだけを愛していれば生きていける。
その価値は、その人にしかわからない。
デジタル時代に、こんなアナログな生活。なにが楽しいのかと思う人もいるかもしれないが、多くの人が朝から晩まで、スマホの画面ばかり見て暮らしているこの日常。
やっぱり、どっかおかしい。
誰しも自分なりの「木漏れ日」がほしいだけなのに…ね。