古本屋でたまたま見つけた『銀座のカラス』を久しぶりに読んだ。
20年ほど前に朝日新聞に連載された椎名誠さんの小説だが、昭和40年代の流通業界黎明期に百貨店の業界紙に入った青年が、時に傷つき、つまづきつつも、自分の人生を切り開いていく姿を活写している。
映画『さびしんぼう』の言葉を借りれば、「傷ましくも、輝かしい」青春小説といったところだろうか。
流通戦争の果てに
時代背景はちょうどスーパーマーケットが各地に進出し始めたころだが、当時の百貨店は小売りの王者。各地で勃興してきたスーパーなんか相手にしていなかったはずだ(想像ですが)。
その後の流通業界の激変はみなさんご存じの通り。スーパーが全国に拡大し、ダイエーは一兆円企業になったが、その後の競合激化やバブル崩壊を経て、勢力図は一変した。
逆境の百貨店
快進撃が続いた百貨店も、バブル崩壊後は縮小。デフレによる消費後退が続く中、2000年代に入ると合併・統合が進んだ。
近年はインバウンド(訪日外国人)需要の追い風もあったが、コロナ禍で昨年は売り上げが急減。地方の百貨店の閉店も相次いでいる。
ストアーズ社(『銀座のカラス』は著者の同社前身デパートニューズ社在職時の経験などを基に書かれたらしい)の報道によると、全国百貨店の20年売上高(日本百貨店協会調査、73社196店)は4兆2204億円余りで、既存店ベース(店舗数調整後)の前年比は25.7%減。インバウンド需要の激減とコロナに伴う臨時休業や営業自粛、消費環境の変化による国内市場の低迷が響いたという(全国百貨店20年暦年売上高 コロナ禍の環境変化が直撃、過去最大のマイナス | デパートニューズウェブ - 株式会社 ストアーズ社)。
デジタル対応、サブクスも
コロナ禍がまだ年単位で続く可能性がある中、百貨店はこうした逆境を跳ね返せるのか。
出遅れていたEC(電子商取引)事業の拡大などに活路を見いだそうとしているようだが、今やネットでいつでもどこでもモノが自由に買える時代。高付加価値の商品で差別化するといっても、「良品安価」を求める人が多く、ブランド品だって最新じゃなければアウトレットで安く買える時代だ。
路線でいうと、「脱・百貨店」あるいは「原点回帰」で再生を目指す動きがあるようだ。例えば、大丸松坂屋百貨店は衣料品のサブスクリプションサービスを始めたという。
しかし閉店は続く。2月末には三越恵比寿店、そごう川口店が閉店。また、名鉄はこのほど金沢の百貨店「めいてつ・エムザ」の売却を発表した。
原点回帰で復活を!
そんな中、老舗の三越伊勢丹ホールディングスが4月に社長交代する。EC事業・オンライン接客などに力を入れ始めている同社。VR(仮想現実)を活用したスマホアプリの提供も開始したらしい。
今月のテレビの日経スペシャル「ガイアの夜明け」では、この三越伊勢丹と高島屋の試みを取り上げていた。
印象に残ったのは、高島屋の初代が残した「進取の気象」という言葉。従来の習わしにとらわれることなく、常に時代に合った新しいものを提供していく。そこに小売りの原点があるということだったが、ということは結局、「脱」も「原点」も向かう方向は同じではないか。
ところで、高度成長期にウルトラマンが登場して今年は55年(「ウルトラマン」55周年記念サイト)。夏には映画「シン・ウルトラマン」が公開されるという。この混迷の時代に再び救世主の登場だ。
高度成長期以降、百貨店はずっと街のシンボルだったはず。
それがいつの間にか各地で消えようとしている。
進取の気象でよみがえった「シン・百貨店」が各地で生まれたとき、日本経済は本当に復活したといえるのではないか。
全国の百貨店よ、がんばれ!
―つぶやき追伸―
出張時にときどき利用するのが、日本橋三越本店の「菓遊庵」。
ここは全国の銘菓を取りそろえたコーナー。先週ひさしぶりに出張したとき、お土産用に買いました。株主優待カードを使って。
おすすめ!株価がもっとあがれば株は売るかもしれませんけど…。