「生きすぎじゃないか」
定年が見えてきた年代になって、自分のまわりでも80代、90代以上の人が珍しくなくなってきた。
でも、たいていは病気持ちで、体が若いときほど言うことをきかなくなり、なんらかの介護を受けている人がほとんどだ。
認知症になった叔母は数年間施設にいて、そこで亡くなった。長生きはしたけど、家族のことも分からないその数年間は、その人にとっても家族にとってもなんなのだろう。
80代以降は、どうしてもかつてほど自分で好き勝手に出歩いたりすることもできなくなる。
「人生100年時代」と言えば聞こえは良いが、それは逆に言うと、言葉は悪いが消えそうで消えない命を灯す老人が大量に社会にいる時代ということだろう。
『未来の医療年表』(講談社現代新書・2020年刊・奥真也著)にもこう書いてある。
「もうすでに、人が簡単に死ななくなっているという実感がある方は多いのではないでしょうか。そして、あと数年経てばその状況はさらに進み、『病気で簡単に死なない時代』が確実にやってくるでしょう」
そう、人は確実に死ななくなっている。
だから、冒頭のようなことをときどき思うのだ。関西人だから本当は「生きすぎなんちゃうか」とつぶやいているのだが。
その一方で、若い人を中心に自死する人が増えている。
これは一体どういうことなんだろうと思っていたら、年末にNHK BSの番組「まいにち養老先生、ときどき…『2021 秋』」での養老孟司さんの言葉に、そういうことかと腑に落ちた。
長く解剖に携わってきた人生を振り返り、平均寿命の延長で死ぬ人がだんだん年を取ってきたと養老さんはいう。でも若い人の死因トップは自殺だとして、今の世相をこんな言葉で表現する。
※「生きている」という実感がなくなってきた。
※生きている状態と死んでいる状態の間の坂が緩い、コントラストがついてない。
※生きているんだか、死んでいるんだか、分からない状態で生きている。
だから
※「死んでもいいか」という状態になっちゃう。
という。
振り返って自分がコントラストのある人生を送れているかと考えると、それも危うい。
あなたはコントラストのある人生、送れてますか。