武力より知力勝負の摂関政治―『平安貴族サバイバル』
律令制があっという間に壊れて荘園が拡大。一部を除き兵役をやめて「健児」で代用し、国は直轄の警察権、軍事権を放棄する。
荘園は、租税等を免除してもらう「不輸不入の権」を得るため、どんどん上の階級に寄進される。その権利は重層的で複雑になり、その頂点である上流貴族や皇族、有力寺社が多くの荘園を所有することになる。
荘園を直接管理する農民は自ら武装し、やがて武士化する。
宮廷では、摂関家が娘を入内させ、ひたすら男子誕生を切望する。生まれた男子が次の天皇になると、天皇の外祖父として摂政・関白になって権力を握る。
それが摂関政治。結局は他氏を排斥した藤原氏の天下なのだが、その藤原氏も同母腹の兄弟間で権力争いを繰り広げる。
勝った方は栄華を極めるが、負けた方は藤原氏といえどあわれだ。
素人が知っている教科書的な知識では、ざっくりそういうふうに要約できる。でも、現代人には、なんか夢物語のようでリアル感がない。
ただ、『平安貴族サバイバル』(木村朗子著)を読んで、あらためてこの国風文化が生まれた時代がなんとなくいとしく思えてきた。
「権力奪取の方法として、摂関家は、娘たちが次代の天皇となるべき男子を出産してくれることに賭けた。天皇の寵愛を受け、妊娠し、かつまた男子を産むというのは、確率を競うようなもので、まさに賭博だ」
たしかにそうだ。この闘争に勝つため、入内した女性のまわりに「教養と才気あふれる女房たち」を配した。その代表が清少納言であり、紫式部であった。
知力を活かし当意即妙な応答が求められる宮廷サロンはある意味、大喜利の場でもあったような気もしてくる。
もちろんそれはハイセンスで、みやびな、雲上人のまわりだけの世界。
「権力闘争という生々しい現場で、子を産むという幸いを引き出すために女たちの知力をあてにするというのは、ずいぶんと面白い時代ではないか」と同書はいう。
そういう視点をもって、学生のときにもっと古典を読めばよかった。いまさらながらそう思う。
「香炉峰の雪いかならん」のどこがおもしろいのか、わからなかった高校時代。同感される方も多いのでは。
さて、読書の秋。
世界中が武力で覇権を争うこんな時代だからこそ、『枕草子』などの古典を手に取るのも―いいかもしれませんね。
「日入りはてて、風の音、むしのねなど、はた、いうべきにあらず」
|