なぜ僕らは働くのか。
この問いに明快に答えられる大人はどれだけいるだろうか。もちろん仕事は「生活や家族のため」という側面が大きいが、仕事は単にお金を稼ぐ手段としてだけでなく、その人の人生の大きな部分を占める。生き方そのものにも直結する。そして、誰もが「自分らしく働き、幸せに生きられること」を願っているはずだ。
だが、昭和の高度成長期のように、1つの会社に入って、まじめにコツコツ定年まで働けば老後もそれなりに豊かに生きていけたのは昔の話。今は「公助」より「自助」が優先され、サラリーだけでは生活さえ心許ない。年功序列の終身雇用制も崩れつつあり、ますます経済格差が拡大する時代だ。
過労死やブラック企業が表面化したからか、いまさら「働き方改革」なんてのも始まっているが、本当に被雇用者のための改革になるとは思えない。これからは、早くから収入の柱をいくつか確立して人生設計していかなければ、おそらく悲惨な老後が待っているだろう。
そういう社会の暗部を大人は子どもに伝えていく必要はあるが、それはそれとして、未来のある子どもたちには、夢や希望を持って自分がどう働くかを真剣に考えてほしい。昨年発刊された『なぜ僕らは働くのか』(監修:池上彰、学研)は、そういう強い思いを込めて中高生向けにつくられた真摯な本だ(本の公式特設サイト:https://gakken-ep.jp/extra/nazehatarakunoka2020/)。
さすが解説のうまい池上さんが監修されているだけあって、筋道を立てて、働くということはどういうことか、さまざまな視点から教えてくれる。漫画を使ったストーリー仕立てになっており、実際に将来に悩む中学生の主人公が、本に書かれている内容を同時並行で学びつつ、前向きになっていくという構成になっている。
章立てをざっと紹介すると「仕事ってなんだ?」「どうやって働く? どうやって生きる?」「好きを仕事に? 仕事を好きに?」「幸せに働くってどういうこと?」―など。わかりやすいタイトルで、冒頭では、この社会がいろんな仕事にお互い支えられて成り立っていることにまず気付かされる。
そして仕事とお金、生活、それぞれの関わりを丁寧に教えてくれる。さらに、ワークライフバランス、AI、多様性(ダイバーシティ)など、現代特有の重要なテーマにも言及。働くうえで考えるべき様々なテーマを取り上げている点で、これから社会に出る若者だけでなく、大人にも、なんらかの示唆を与えてくれる本だと感じた。
もちろんキャリアプランを立てたとしても、その通りに人生はいかない。人生100年時代も見据え、人生のいろんなステージに合わせて、キャリアを見直していく必要性も指摘している。そして最後に「なぜ僕らは働くのか」、この答えに正解はないこと、100人いれば100通りの答えがあるとし、「人生に正解はない。いろいろやってみよう」と呼び掛ける。
●「予期せぬ偶然」をつかみ取る!
本で紹介されている中で個人的に注目したのは、「仕事がうまくいく人の行動の特長」という話の中で紹介されている「計画された偶然性理論」という考え方だ。これは20世紀末、米国のスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授の考えで、「個人のキャリアの8割は予期せぬ偶然で決まる」というもの。本ではこれを「良い生き方・働き方ができる人は、いい偶然を自分の力でつかめる」ということだと要約している。
そのために必要な行動の要素は①好奇心②持続性③柔軟性④楽観性⑤冒険心―。この5つの要素を意識して行動している人は仕事がうまくいくという。
前向きに挑戦していれば、いい偶然が起こり、仕事がうまくいく。それを人は「自分は運が良かった」と言ったりするが、その運命はもしかしたら自分が引き寄せたのかもしれない。しあわせは「仕合わせ」とも書く。その人にとって不思議な運命、めぐり合わせは、その人の努力によって生まれた偶然かもしれない。その僥倖を、人は「仕合わせ」=「幸せ」と呼ぶ。
そう思うと、これから出会える偶然にわくわくする。頑張っていれば、もしかしたら予期せぬ偶然をつかみ取れるかもしれない。
あなたも、わたしも。
Good luck!