まほろば紀行~つれづれなるままにレトロに生きる

日々の雑感や昭和レトロ、素人の投資ことはじめを語ります

社会学を身近に―『文芸の社会学』(加藤秀俊著)

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成人式も世相を反映

20代のある時期、加藤秀俊氏の本をわりと集中的に読んだ時期があった。氏は社会学の権威だが、令和の若い人はこの方の著作に触れる機会は少ないのではないかと思い、「この一冊」に紹介することにした。氏には一般向けの著作も多く、社会学を身近にしてくれた先駆的な学者だ。

今回あえてこの本を選んだことに特別の意味はない。どの著作を読んでもためになるし、普段の生活から社会学的視点で考えることの重要性を教えてくれる。

同書は、文学を通して社会学的な展開を試みた大学での講義をおこしたもの。筒井康隆松本清張司馬遼太郎など、昭和を代表する作家の作品を取り上げ、日本社会の家族、組織、階級、職業、自我などのテーマについて考察している。

氏は「文学作品というのは、それを生んだ社会をうつしだす鏡である」という考えに基づいて、現代の日本社会をとらえようとする。私の手元にあるのは1979年のPHP研究所刊の第1刷で40年ほど前の本だが、いまも日本社会は同書に書かれているように同調主義的だ。「俺ひとりでこういう仕事をじぶんで発見して、じぶんで運営してみようという個人主義者は、残念なことにきわめて少ない」という氏の指摘はいまも変わっていない。

氏の本を手に取れば、いまも新しい発見がきっとあるはずだ。私は同書で指摘されている小松左京の一連の著作が気になったので、読んでみたいと思っている。小松左京が『日本アパッチ族』から『日本沈没』に至る著作で一貫して問うているのは「日本という国家、あるいは国土とは何か、という深遠な問題」だという。

その作品は東日本大震災で『日本沈没』、コロナ禍では『復活の日』が、その予言的な内容とも相まって再び注目を集めている。

加藤秀俊氏の著作には、そういう知的展開を広げてくれるカギやヒントも詰まっている。